ITやAIに関するちょっとしたメモ

AIやIoTをはじめITに関して記録しておきたいことをメモ的に書いていきます。

プロ棋士 中村太地 王座の「AIとの対戦で見えた、将棋の新しい地平」の講演を聞いて

 2018年1月30日に「ITインフラSummit 2018」というイベントに参加しましたが、その中で将棋界の中村太地 王座による「AIとの対戦で見えた、将棋の新しい地平」という講演があったので、備忘録もかねてまとめておきます。

 中村王座は、NHKの「NEWS WEB」のコメンテーターや「Eテレ将棋フォーカス」の司会を務めている人で、とても理知的で話の上手な方でした。書籍も出されています。

 尚、本講演については、主催のIT Proによる記事もありますので、そちらのLinkも貼っておきます。ここでは、その記事との重複を避けつつ、おそらく人工知能に関心を持たれている方々に広く参考になるのではないかと思った点を中心に簡単な内容の紹介と私自身の感想を記述します。

itpro.nikkeibp.co.jp

 

 

講演の概要

 最初に、前振りとして中村王座の自己紹介や略歴、プロ棋士は150人くらいいて週に1回対局する以外は各地で普及活動したり研究しているというような将棋界についての一般的な話がありました。また、話題の藤井聡太四段は連勝を重ねる前から将棋界の中では才能のある若者として有名だった、羽生善治さんがあれだけタイトルを取り続けているのはどれだけすごいことなのか、TVで有名になった加藤一二三さんと対局したときの面白エピソードについても披露されていました。

 講演のメインテーマであるAIと将棋に関しては、以下のような3つの柱に基づくプレゼンとなっていました。  

  • 将棋AIのあゆみ

  • AIが将棋に与えた影響

  • 今後の将棋界

 

AIは将棋界をどう変えたか

AIを使わない人は勝てない時代

 もっとも印象的だったのは、中村王座が、「ソフトを使わない人は勝てなくなっている」と断言していたことです。現在の将棋界で活躍している人は、羽生さんも含め、みんなAIを活用して研究しているとのこと。「うまくAIを取り入れている人は棋力が上がっている」そうで、年配の棋士にはAIを使わないやり方で勉強している人もいるけど、そういう人はもう勝てない時代になっている、ということでした。

 AIというと「AI X 人間」というところがクローズアップされることが多いですが、実は「人間 X 人間」の勝負においても、AIをどう使いこなして研究して工夫するかが、棋士の間の対戦成績を決定的に左右する時代になった、ということです。

 

AIが将棋の奥深さを開拓してくれた

 AIの登場によって、将棋界にはいくつも変化があったそうです。序盤の重要性や主導権を握ることの大切さが認識されるようになり、新しい指し手がいくつも見つかっています。逆に、斬新な手を考えても、「どうせAIに教えてもらったんでしょ」と思われてしまい、新手を作る価値が下がってしまっているということも起きているようです。

 では、AIの登場によって、将棋は面白くなくなったのでしょうか?どうやら、そうではないようです。なぜなら、AIによって、それまで生身の人間が気付かなかった将棋の可能性が次々見つかってきたからだそうです。中村王座は「ソフトが将棋の奥深さを教えてくれた」と語っていました。

 

AIが登場しても棋士という職業は無くなっていない

 囲碁も将棋も、もうプロといえどもAIに勝てない時代になりました。しかし、だからといって棋士という職業はなくなっていません。ソフトのやることは強さはあってもストーリー性という点で、「人間 対 人間」にはかなわないところがあるそうです。プロ棋士の対局をTVやネットで観戦するファンの中には、将棋ソフトを使って次を予測して楽しんでいる人もいるそうで、将棋の世界ではAIが将棋に新しい魅力と楽しみ方を開拓する方法をもたらし、棋士やファンと一種の補完関係すらできつつあるように思えました。

 

AIは理由を教えてくれない

 機械学習を勉強されている方なら、もう何度も聞いていることでしょうが、将棋のAIにおいても、「ソフトはなぜそれがいいのかという理由まで教えてくれない」ということをおっしゃっていました。これは他の分野でもよく問題になっていることですね。

 

将棋界とAIの関係から見えてくる教訓と感想

 中村王座は、今後の棋士に求められる条件として、3つのポイントを挙げていました。これは先述したIT Proの記事に詳しく書かれている内容ですので詳細は割愛しますが、とても納得感のある話しでした。

積極的な姿勢

冷静な分析力

卓越した変換力

 前述したように、将棋界ではAIを敬遠している棋士はもう勝てない時代になっています。もちろん、AIとひと口にいってもシンギュラリティをはじめとするSFのような世界はまだまだ先ですし、完全情報ゲームである将棋の世界と不完全情報ゲームである現実世界にも大きな違いがあります。ただ、今も対局の連絡はメールではなく郵便で、対局の抽選もトランプ使ってやっているという古式ゆかしい伝統が残っている将棋界は、その一方ではAIの活用という点で間違いなく世の中の先端を行っており、AIと人間の協調の在り方を考える上の参考にはなりました。

 また、個人的には、ちょうどその前の週に、Googleさんの「TFUG」というイベントで、Ponanzaという将棋ソフトのDeep Learning部分の開発を担当された方のプレゼンを聴くことができ、2週続けて開発者目線と棋士の目線から将棋とAIの関係について貴重な話を聴くことができてとても有意義でした。